第21球「腰を切る」(2001.6.6)

 我々TWINSは試合前必ず全員揃ってきっちりとアップを行う。草野球チームの中では珍しいチームの部類に入るのだと思う。大概普通のチームは、自己責任の名のもとで各自が自由に行っていることが多い。もっと手厳しく言えば、一切のアップを行わずに試合に臨むところも散見される。俺はそういうチームには絶対に負けたくない。いやいや、こういうことを書きたいのではない。もっと別の視点からアップを考えてみたいのだ。

 「腰を切る」動きは必ずアップの中に登場する。体操を終え、ダッシュ等のメニューにいつも登場するアレである。この動きは実は野球における基本中の基本の動きなのである。一般的に「走・攻・守」が野球の三拍子であり、この三つとも秀でている選手がいわゆる好選手と言われる。この三つの動きの起点になるのが、ずばり「腰を切る」動きなのだ。

 例えば、盗塁する時に最も大切なのは、投手のモーションに合わせて腰を切り走塁体勢に入ることだ。実は決して足が速ければいいと言うものではないのだ。打撃の場合は、腰の回転でボールを捕えることになる。守備にしても打球の方向に体を向けるために腰を切る。そうすることで、打球の捕球地点にいち早く到達できるのだ。よく背後に飛んだ打球に対して、打球と向かい合うように追いかける(自動車バックなんて言われる)のは腰を切っていない動きに他ならない。当然、落下地点に到達するまでに時間がかかることになる。その結果どういうことになるか…外野手ならおわかりであろう。

 内野手にしてもよく「両足を揃えて捕球してはいけない」という教えを耳にする。これも不意の動きに対応するために絶対に必要な要素なのだ。両足が揃うと、腰を切れないのである。だから必ず右投げの選手なら「膝を柔らかく、左足を一歩前に出して捕球しなさい」、と教えられる。腰を切ることで、守備の動きの起点を作るためには、これは実に合理的な動きなのである。

 アップは単なる準備運動ではない。怪我の防止・フィットネスの向上に役立つものであることは言うまでもないが、むしろ野球の動きを随所にちりばめた「練習」なのだ、と俺は思っている。実は、試合前に試合は始まっているのである。