第28球「勲章」(2001.8. 1)

 ロックベーシストにビリー・シーンという男がいる。卓越したテクニックで、ロック界の表舞台で華やかな活躍をしてきたのだが、彼の肋骨は、なんと凹んでいるそうだ。それは長年演奏をしているうちにベースギターが彼の肋骨にあたり、それが原因でそのようになっているそうだ。そして彼はこのように言うのだった。「これは俺の勲章さ」。

 ふと俺自身のことを省みてみると、学生時代は豆だらけだった手のひらも今はきれいになってしまったし、もちろんその当時の体のキレもない…。いや、一つだけある。それは俺の左の人差し指だ。俺の左手の人差し指は右手の人差し指よりも明らかに太くなっている。左の人差し指、ボールをつかむ部分だ。長年のキャッチボールを始めとする動きが、俺の左の人差し指を太くしてしまったのだ。そしてそれは、グラブの芯でボールを掴み続けてきた証であり、まさに俺の体に染みこんだ、俺の勲章なのだ。とはいえ、日頃の生活では何の役にも立たないことではある。あくまでも野球人としてはちょっと誇れることなのだ…。

 長年一つのことに取り組んでくると、どうしても体の一部だけに負担がかかり、そこが故障として出てくる。野球にしてみても、腰や肩・肘などが代表的な部位である。結局、これらの筋肉や、骨というのは消耗品であり、痛みを伴うかどうかは別にして、衰えてくるものである。もちろん年齢的なものも要因として多分にあるのだろう。野球人なら誰しも抱える悩みだ。

 俺も一度肩を壊したことがある。大学3年の夏のことだ。硬式野球から軟式野球に変わり、4日間で3試合完投、などという無茶なことをしていたら、やっぱりきました一年後。手首を使ったスナップスローでしか投げれない状況になってしまったのだ。チームメイトには黙っていたけど、全力投球ができないというのは忸怩たる思いがしていたものだ。

 要はそれをどのように捕えるかということなのだ。痛いのでできません、と納得するのか、痛いなりに工夫してやっていくか、どちらかしかないのだ。つまり、それを傷としてとらえるか、勲章としてとらえるか、そういう気の持ちようなのだ。ま、俺の場合ほっておいたら痛みは治まり、しかも内野手のプレーで非常に重要な、スナップスローをマスターしてしまったと、いうオマケまでついて、まさに怪我の功名だったのだが。これもクサらず前向きに取り組んだ副産物であるといえよう。

 誰しも抱えているであろう故障も、このように考えてみると、意外と痛みも苦にならなくなる…とまではいかなくとも、少しはいいプレーにつなげられるのではないだろうか。そして故障を意識して、それをケアしていくことで、長く選手として活躍できることにつながるだろうと思う。長く活躍すること、それこそ草野球人の勲章なのだ。